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業務効率化 読了 約6分

印刷会社がAIで受発注の属人業務をゼロに——老舗印刷業が実現した「記録が残る仕組み」の作り方

印刷会社の現場では、受発注が電話・FAX・メール・営業担当の手書きメモと複数チャネルに分散していることが多い。「あの案件の色校正どうなったっけ」「納期の変更を担当者しか知らない」——こうしたやり取りが、毎日のように発生する。ベテラン社員が蓄積してきた記憶と勘が、業務の「見えない基盤」になっている。

問題が顕在化するのは、そのベテランが退職・休職したときだ。引き継ぎで抜け漏れが出て、取引先からのクレームにつながる。あるいは、繁忙期に案件が集中し、担当者が追いきれず納期遅延が発生する。これは印刷業界特有の構造的な問題であり、「気合いと経験で乗り切る」ことを美徳とする文化が問題を長期化させてきた。

本記事では、地方の老舗印刷会社がAIを活用して受発注・色校正・納期管理の属人業務を仕組み化し、「担当者が変わっても業務が止まらない体制」を構築した取り組みを紹介する。

印刷業の受発注が属人化しやすい3つの理由

印刷業における受発注業務が属人化しやすい背景には、業界固有の構造がある。

1. 案件ごとに仕様が異なりすぎる

量産品を扱う製造業と違い、印刷は「オーダーメイドの連続」だ。用紙、サイズ、色数、加工(箔押し・型抜き・PP加工等)、部数、納期——これらの組み合わせは無限にある。標準化が難しく、「あの案件と同じで」「前回の色味に合わせて」という曖昧な指示が横行する。これを受け止めるのは、過去の案件を記憶しているベテラン担当者の役割になりがちだ。

2. 色校正の記録が紙・口頭に依存

色校正のやり取りは、メールのPDFや印刷した校正紙、ホワイトボードへの走り書きで管理されることが多い。「どの版が最終承認か」「修正指示の内容は何だったか」が後から追えない状態になっており、再印刷や刷り直しのコストが発生する要因になる。

3. 工程管理が担当者の頭の中に依存

「今日の工場の状況」「どの案件を優先すべきか」を判断できるのは、現場経験のある担当者だけ、というケースが多い。アナログの進捗ボードや個人のExcelで管理されており、経営者がリアルタイムで全体を把握できない。

AI導入前の課題

  • 受発注チャネルが5つ以上に分散。電話・FAX・メール・LINE・直接持込と複数の入口がある。これを担当者が手動で転記・一元化しており、転記ミスや抜け漏れが発生しやすい状態が常態化していた。
  • ベテラン社員の退職で記録が消滅するリスク。30年以上勤務するベテランが管理してきた取引先別の特記事項(「A社はPDFではなく必ず紙校正を出す」「B社の担当者は○○さんに確認を取る」等)が、口頭伝承のみで文書化されていなかった。
  • 色校正の承認フローが追えない。「この校正、最終承認はもらったっけ」という確認作業に時間がとられ、念のため再確認の連絡を入れることが多発。取引先との信頼関係に影響するリスクがあった。
  • 繁忙期の突発案件対応で残業が常態化。年度末・広告キャンペーン直前は案件が集中する。優先順位の判断が担当者の裁量に委ねられ、残業が慢性化していた。工場の稼働状況をリアルタイムで確認できる仕組みがなかったことが根本原因だった。

3つのAI活用で「記録が消えない業務」を実現

取り組みの方針は「現場の運用を変えない」こと。チャネルをすべて一本化するより、既存の連絡方法をそのままに、AIが自動でデータを整理・蓄積する仕組みを構築した。

01. 受発注チャネルの自動統合

電話・FAX・メールそれぞれで受けた受発注情報を、AIが自動でテキスト化・分類して一元管理システムに集約する。FAXはAI-OCRで読み取り、電話応対の録音はAI文字起こしで記録化。メールは自動解析して案件情報を抽出する。担当者は「同じ情報を複数の場所に転記する」作業から解放される。

02. 色校正の承認履歴の自動記録

色校正のやり取り(メール添付のPDF、担当者のコメント)をAIが自動でタグ付け・バージョン管理。「どの版が最終承認か」「修正指示の内容は何か」がシステム上で常に参照できる。承認がない状態での印刷着手を防ぐアラート機能も組み込み、刷り直しコストの削減につなげる。

03. 製造進捗のリアルタイム可視化

工場の稼働状況・各案件の進捗をダッシュボードに集約。経営者・営業担当・工場担当が同じ画面で現状を把握できるため、「今日は何を優先すべきか」の判断が担当者の勘ではなくデータで行える。納期遅延リスクが高い案件には自動でアラートが上がる。

導入効果の試算

以下は、同規模の印刷会社における標準的な業務工数をもとにした試算。導入企業の実測値ではなく、業界平均データを参考にした参考値として示す。

  • 受発注の転記・確認作業:1案件あたり平均15〜20分 × 月200件 = 月50〜67時間の工数。AI統合で転記作業を8割削減した場合、月40〜54時間の削減見込み。
  • 色校正の確認・問い合わせ対応:月20〜30件の「この校正最終ですか」確認を、承認履歴の参照に置き換えることで、往復の確認工数を削減。
  • 刷り直しコスト:印刷業における刷り直し発生率は業界平均2〜4%程度とされる。承認フローの自動化で刷り直しを半減させた場合、年商2億円規模の印刷会社で年間80〜160万円のコスト削減試算。

※上記は業界統計と一般的なプロセス改善率をもとにした試算値。個別企業の業務実態・規模により大きく異なる。

「記録が残る」ことで起きる2次効果

AI導入の直接効果(工数削減・ミス削減)に加えて、「記録が蓄積され続ける」ことによる間接効果も大きい。

取引先ごとの特記事項、よく使う仕様の組み合わせ、繁忙期のパターン——これらが蓄積されると、新入社員でも「過去データを参照して業務ができる」体制が生まれる。ベテランの知識がシステムの中に残り、退職・異動の影響を最小化できる。

また、経営者が全案件の進捗をリアルタイムで把握できることで、「現場に任せきりだった判断」に経営者が関与できる余地が生まれる。属人化からの脱却は、業務効率化だけでなく経営の可視化につながる。

今後の展開

現在は受発注・色校正・進捗管理の3領域でAIを活用している。次フェーズでは、過去の案件データをもとにした受注予測(繁忙期の人員・工場稼働計画への活用)、取引先別の単価・仕様の分析(利益率の低い案件の検出)への拡張を検討している。

印刷業は「労働集約型の典型業種」とされてきたが、記録・転記・確認といった定型業務のAI化が進むことで、人の手が必要な「価値ある業務」——デザイン提案、取引先との関係構築、品質判断——に人員を集中できる構造に変えることができる。

同じ課題を持つ印刷会社・製造業の方へ

「受発注が担当者の頭の中にある」「ベテランが辞めたら困る」「繁忙期になるたびに残業が増える」——この3つが当てはまる場合、現状の業務はAIで改善できる可能性が高い。

FURUSATOでは、まず現状の業務フローを無料で棚卸しし、「どの業務にAIが効くか」「導入コストに見合う削減効果が見込めるか」を試算するプロセスから始める。成果が見込めない場合は正直にお伝えする。

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